歯科衛生士徒然草 第七話

§第七段
20年にわたる仕事人生の中で、私が「ピンチ」に曝されたことは数知れず。「こりゃー参った、もう絶体絶命!」と思いつつ、全身の血はスーッと下がる。 膝はヘラヘラと笑い、口唇は緩みつつも言葉は出ない・・・。インレーの試適が試食になってしまったり、講演の会場を間違えたり・・・。お金の収支が全然合 わない、患者さんが来院しているのに技工物が遅れて届く、極めつけは、スタッフルームで院長先生のうわさ話に花を咲かせていると、本人がドアの向こう側に いらっしゃった、などなど。挙げればきりがないので、この辺でやめておく。
しかし、よく考えてみれば、世の中何とかならないことなど皆無に等しい。ピンチに全身全霊で立ち向かい、無事にコトが解決したときには、自分が一回り大 きくなった気さえする。「そんなムダなエネルギーの使い方をしてるの?」と思われる方もいるだろうが、私はこんなことでもなければ、全力投球などしない。 いや、非常時に備えて普段は余力を残して待機しているのだ。そして、ピンチに出くわすと「ピンチはチャンス!」と唱えるのである。すると何となく力がわい てくるから不思議だ。世間では、これをプラス思考と呼ぶらしい。患者さんにとっても”病”というピンチはチャンスに変えられるはず。そうなるよう、歯科衛 生士として患者さんをサポートしたいものだと思いながら、日々仕事をしている。
在宅歯科衛生士というヤクザな歯科衛生士稼業は、仕事の浮き沈みが激しい。イヤになるほど忙しいときには「充実している」、閑古鳥が鳴く日々には「ゆとりがある」と自分に言い聞かせている。そして今宵のように原稿など書きつつ、閑中忙を楽しむのである。
嫌な患者さんの担当になったとき、反りが合わないドクターと仕事でペアを組むことになった場合などは、当然ながら仕事もうまく運ばない。そんなときも 「○○さんが悪いのだ」とは思わず、なるべく「二人の組み合わせが悪いのだ」と考えることにしている。結婚だって、いい人同士であっても組み合わせが悪け れば続行できないなどと思いつつ・・・。
単なる言葉のトリックとも取れるが、発想の転換で気持ちよく仕事ができるのであれば、知恵とも呼べる。プラス思考のテクニック、皆様もお試しあれ。