歯科衛生士徒然草 第三話

§第三段

1.6歳児健診で歯科保健指導をしていたとき、無表情のA子ちゃんが目についた。母親に「お家でも、A子ちゃんと今みたいに遊んであげたりお話ししてあ げてね」と伝えたら、「この子はまだしゃべれませんから・・・」という答えが返ってきた。「オイオイ、あなたが話しかけてあげないと、A子ちゃんはしゃべ れるようにならないのヨ。何考えてんの!」という言葉を飲み込み、あわてて保健婦の指導に回したのだが、このようなケースの母子にときどき出くわす。

我が子との関わり方を知らない母親に出会うたび、産婦人科医の昇 幹夫先生から聞いた話を思い出す。病院の授乳室で、新米ママがぎこちなく赤ちゃんを抱 いておっぱいを飲ます姿を見ていた超高齢ベテランママが言った。「あんたたち、抱かれるのは上手かもしれんけど、抱き方は下手やなあ。」そして、ヤンママ たちに赤ちゃんの抱き方を指導したというのだ。

往々にして、新米ママは遊んでもらうのは上手だが、遊んであげるのは得意ではない。これと同じ理論なのだろ う。
今は、歯科衛生士が保護者に遊び方の指導をしなければならないご時世である。子育て経験の豊かな”おはあちゃん歯科衛生士”が21世紀にはもう一度輝けるはず。頑張ろうではありませんか。

赤い顔して千鳥足で帰ってきた夫が嘆く。「昔は、飲みに行ったらホステスさんが楽しませてくれたのに、今じゃお金払って女の子のご機嫌を取らんといか ん。世の中どうなっとんじゃ。その点、おかまバーのお姉ちゃん(?)はプロや。ほんま楽しませてくれる」と言うのだ。歯科衛生士もおかまさんに負けないよ う、遊びについて勉強した方が良さそうだ。

なぜなら、私たちはプロなのだから。

保母や発達心理専門家は、子どもの年齢にあった遊びやかかわり方の研究をしているので、彼らからいろいろ教えていただくと良い。NHKの「お母さんと いっしょ」などの子ども向け番組も役に立つし、乳幼児向けの雑誌なども情報満載である。また、祖父母の代に昔の遊びを習うのも一案だ。感心するのは、伝承 されてきた遊びや歌が発達心理学の理にかなっているということだ。
育児は育児であり、育自でもある。たいへんな仕事であるが、歌でも歌いながら楽しみたいものだ。