Mさんは、訪問口腔ケアの患者さんです。
出会ったのは、今年の6月、Mさんが入院している病室でした。
顎骨壊死があり、痛みを伴う出血排膿がありました。
また、壊死した部分に食物残渣が停滞しており、
ご自分で洗口しても除去しきれず、不快感を訴えていらっしゃいました。
残存歯は右下3番のみで、食事のときだけ義歯を装着。
口腔ケアで心掛けたのは、3番のプラークコントロール。
口蓋裂になった部分と、右下口腔前庭の深い傷の、徹底した洗浄消毒でした。
私の訪問は週1回ですが、あとの6日間はご主人さんが献身的に清掃してくれました。
その結果、8月末には口腔からの出血排膿はおさまりました。
それにともない、毎晩続いていた発熱がおさまり、痛みも軽減していったのです。
これには看護師さんも驚き、口腔ケアって大切ですねとおっしゃいました。
「ご主人の愛ですねー!」
この状態が11月末まで続きましたが、12月に入ってから容体が少しづつ変化してきました。
12月17日は、食事を1口2口しか召し上がらなかったそうです。
12月24日に訪問すると、食事は全くとらず、口腔内は乾燥した痰で一面覆われていました。
ご主人は「これが食べんようになったら口はよごれると、本田さんがいよったことやな。」と
納得したように話されました。
マウスウオッシュを使って痰を除去し、オーラルバランスを塗布しました。
すると、舌が自由に動き、呼吸が楽そうに感じました。
全く聞き取れなかった言葉も分かりました。
私が最後に聞いた言葉は、ご主人に言った「ティッシュ」です。
これは、口腔ケアするときに私が使うもので、私に対する気遣いでした。
明日は、Mさんの告別式です。
ベッドで苦しいはずのMさんは、いつも明るかった。
私が「あんこ食べた?これは小豆の皮やね・・・」というと
Mさんは「ばれたか、隠し事はできんな」冗談を返して来てくれます。
たまに、同じことを2週にわたって尋ねると、
「こないだ言うたで」と切り返して来てくれるのです。
また、いつもお見舞いの方がたくさんいらっしゃいました。
甥ごさんが、出張の帰りにお土産を持ってきてくれたり、
ご兄弟が、瀬戸内の美味しいお魚を持ってきてくれるなど・・・・。
これは、お元気な頃からの、Mさんのお人柄を伺わせるものです。
だからでしょうか、Mさんの訪問は楽しみでもありました。
入院は決して喜ばしいことではありませんが、
Mさんらしい最後の日々を過ごされたのでなないかと感じました。
Mさん、苦しかったと思いますが、快く口腔ケアをさせて頂きありがとうございました。
病院では平静を装っていましたが、最後は辛い口腔ケアでした。