珈琲ブレイク(5)

佐川美術館師匠:最近はどうかね・・・

弟子:相変わらず訪問に行っています。
   また、新しい患者さんができ、頑張っています。

師匠:どんな患者さんなのかな?

弟子:訪問口腔ケア患者Mさんです。
   順調に口腔ケアと言うか、訪問口腔ケアにおける信頼関係は深まっております。
   足浴したり、爪を切ったり・・・

師匠:君は何でもするんだね。

弟子:身体全体が口だと思っていますから。

師匠:君らしいね。

弟子:いろいろしゃべってくれるようになって、私も楽しいんです。
   なんか、詩を書いたり、編み物が好きだったHさんに似てて・・・

師匠:Mさんも詩なんか書くの?

弟子:そうじゃなくって、雰囲気が似ている。
   喋り方や、乙女チックなところ。

師匠:いつもはどうしてるの、そのMさん。

弟子:施設内のレクレーションにも参加したくないそうで、一日ベッドにいます。
   本人言うには、食事も一人だそうです。

師匠:<孤絶>だね。僕の言う<孤絶>状態だ。

弟子:そうですね。以前おっしゃっていた、<孤絶>ですね。

師匠:人間生まれるのも、死ぬのも独りだから孤独だ。
   孤独は悪いことではない。孤独は大切にされなければならない。
   しかし、この<孤独>は<孤絶>とは違う。
   周りと隔離状態になったのが<孤絶>だね。

弟子:<孤絶>、怖いですね。

師匠:とても恐ろしいことだと思うね。
   <孤絶>状態のMさんにとって 君が行くことは、
   心に、風が通ったんじゃないかねー。

弟子:手探りで関わっていることが、そうなってるといいですが・・・

師匠:そのコミュニケーションは、針の穴に風を通すようなことだね。

弟子:そうですね。
   針の穴がどこにあるか探す・・・
   ケアって、そう言うことかもしれませんね。
   一人一人、その穴がどこにあるか、一緒に探すのかも・・・?

師匠:きっとそうだよ。

弟子:結構、面白いですよ。
   Mさんの心に風が吹いた時は
   こちらも、詰まった針の穴に風吹くので、爽やかになりますものね。

     <これが本当の神風!?>…ここは語らず。

弟子:実は、Mさんとこんな会話をしました。
     「Mさん、もう春やね。窓の外見てみない?」
     「結構よ」
     「どうして、気持ちいいよ。そろそろ桜の季節だし。見ようよ。」
     「目が悪くなったから、見えないのよ。」
     「そうなの・・・・眼鏡は?」
     「どこかにいってしまったわ」

師匠:それは、単に視力の問題じゃないかもしれないよ。

弟子:あ、あぁー そんなこと、全く考えもしませんでした。
   次は、そこも踏まえて、会ってくることにします。

 

<孤絶>を解放せねば、Mさんにとっての、世界も隣人もなくなってしまう。
それはMさん自身が存在を失ってしまうことにほかならない。
そうなると、「口腔ケアも、お風呂も結構」という気持ちも理解できる。
外を見ることもお断り・・・?

明日は、Mさんの訪問です。DSC04928

 

 

 

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