岩手県の歯科医師のことが児童書になった。
表題は「泥だらけのカルテ」(柳原三佳著、講談社)
▼佐々木憲一郎さん(46)が住む釜石市鵜住居地区は東日本大震災で約600人が死亡・行方不明になった。診療所も自宅も津波で壊れたが、半年後にプレハブの建物で治療を始めた。
▼壊れた町を離れることは考えなかった。治療の傍ら、残されたカルテを役立てたいと思った。泥だらけの約4700枚のカルテを洗い、身元が分からない犠牲者の歯型と照合するなどした。これまでに患者だけでも50人以上を遺族のもとに帰すことができた
▼災害や事故で身元が歯型で分かる例が多々ある。群馬県の日航ジャンボ機墜落事故でもそうだった。この事故で父を失った兵庫県の歯科医師の兄弟が、現場で地元医師と一緒に作業をした話は近年本になった。兄弟は阪神大震災やJR福知山線脱線事故でも現場にいた
▼人には皆帰るべき所がある。「帰りを待つ遺族の所に帰してやりたい」。その思いがあるから、つらい作業にも耐えられる。兵庫の兄弟も岩手の佐々木さんも、同様の務めに携わる各県の警察歯科医会の医師たちも、思いは同じ。
▼佐々木さんの診療所は天井近くまで津波をかぶった。カルテは流失を免れた。避難する前、佐々木さんの妻(看護師)のとっさの判断で、カルテが詰まった大きな棚の扉に粘着テープを貼った。何かの意思が働いたのだろうか。
=2014/04/07付 西日本新聞朝刊=
警察歯科医会の医師については、8020日歯TV(日本歯科医師会放送局)の
動画がわかりやすいです。
警察歯科医とは警察からの要請を受け、災害時などの身元確認や犯罪捜査活動に協力する歯科医師のことで、 警察歯科医という専門の歯科医師は存在せず、全国の歯科医師会に所属する歯科医師が登録制で活動しています。