『食べかす』「歯垢」「プラーク」「バイオフィルム」ってどう違うの?
前回、担当利用者さんの「口腔内にライトを当てて観る」ことを紹介しましたが、口腔ケアでお掃除しなければならない汚は、何が見えましたか?よくわかるのが「食べかす」「舌苔」「痰」「痂疲」でしょうか。他に何かありましたか?それは「歯垢」です。今回は、この「歯垢」についてお話ししたいと思います。
歯科医院で歯磨き指導や、治療の説明で必ず出てくる言葉が「歯垢」です。最近、「プラーク」とか「バイオフィルム」という言葉で説明している歯科医院もありますが、三つは同じものを指しています。でも、「食べかす」とは異なります。意外とそのこと(歯垢≠食べかす)は知られていません。
さて、「バイオフィルム」とは「菌の膜」で、台所の三角コーナーや風呂、ホースの内側につく、ヌメリのことです。ヌメリの正体は、多種多様の菌です。それらの菌は互いにスクラムを組むように、強固な「コロニー」を形成しています。歯や入れ歯に付着したヌメリを、「歯垢」「プラーク」と呼んでいます。
「細菌のコロニー」=「歯垢」=「プラーク」=「バイオフィルム」≠「食べかす」
歯と歯の間や歯と歯茎の境目を爪楊枝でなぞると付いてくる、白い汚れです。入れ歯でしたら、指で触るとヌルっと感じるものです。歯垢は歯と同じ色をしているので、ライトを使って見ても、鏡でご自分の口を覗いてもはっきり確認できません。ですから、歯科医院では歯磨き指導の際、それを赤く染めて見えるようにしています。
歯に付着した歯垢はわかりにくいので、この存在を利用者さんに理解していただくのは難しいことです。そこで私は歯磨きする時に、透明コップに水を入れ、その水で歯ブラシを洗いながら行っています。
すると、コップの水は写真のようにだんだん白く濁ってきます。
この白い濁りは、ごはんやパンの「食べかす」ではなく、「歯垢」「プラーク」「バイオフィルム」つまり、「細菌」なのです。
「最近のコロニー」と言われてもピンときませんよね。そこで次は、YouTubeを見ていただきます。スマートフォンで、YouTubeから「デンタルプラーク(歯垢)の位相差顕微鏡動画」を見てみましょう。
いかがですか?菌が元気よく動いている様子が映し出されましたね。約300~500種類の菌が元気よく動いているのが、コップの中の歯垢の正体です。この中に、ミュータンス菌というむし歯の原因菌や、数種類の歯周病菌もいるのです。
むし歯の原因菌であるミュータンス菌は、人間が食べたお菓子や清涼飲料水に含まれたお砂糖のおこぼれを摂取し、不必要なものを体外に排泄して生きています。排泄物はネバネバした糊のようなもので、多くの細菌を取り込んでコロニーを形成して歯垢となります。
小学生にむし歯について説明するときには、次のように話しています。
むし歯菌は、お砂糖を食べて排泄(ウンチ)をします。そのウンチはネバネバしており、ばい菌たちをくっつけて「歯垢」を作ります。その歯垢の中で、ばい菌は酸出して、歯の表面を溶かし穴をあけてむし歯を作ります。
一方、歯肉炎は、歯周病菌が歯茎から体に侵入しょうとするとき、体の防御反応としておきた炎症です。歯肉炎が進行すると、歯を支えている骨を溶かす歯周炎となり、さらに重症化すると最後に歯は抜けるのです。
また、歯垢が付着して1~2週間たつと、唾液の中のカルシュウムが沈着して歯石になります。歯垢のコンクリート詰めといったところでしょうか。こうなると、歯ブラシでとることはできませんから、歯科医院で機械的に除去することになります。歯石自体には病原性はありませんが、歯周病菌の格好の住処なので、歯周病治療に歯石除去が必要です。歯石はため込むと、取られる患者さんも、取る私たちも大変ですので、定期的なクリーニングをお勧めします。
歯垢の中に含まれている菌が、唾液とともに肺に流れ込むと、誤嚥性肺炎の原因となります。歯垢は、口臭の原因の一つでもあります。さらに、歯周病菌が血液を経由して全身に流れだし、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、心内膜炎、関節炎、糖尿病などを誘発することもあります。
次回は、以上のような歯垢を取り除く、効果的な歯磨きについてお話しします。