2013.3.31 産経ニュースより
児童書 『は、は、は、歯のおはなし 歯科詩集』
帯には「親子で楽しみながら歯の知識も身につく」とある。確かにこれを読めば歯を大切にしなければならないと思う。
日本歯科医師 会ではいま、80歳になっても自分の歯を20本残そうという「8020(はちまるにいまる)運動」を行っている。やなせさんは94歳。巻末に掲載された同 医師会の大久保満男会長と、やなせさんの対談も楽しい。それによると、やなせさんの子供時代は、ちゃんとした歯を磨く指導などはなかったという。前歯は馬 に蹴られて3本折れてしまったそうだが、自前の歯はまだ10本ほどあるという。感服。
本書は季刊『詩とファンタジー』で連載したものに、書き下ろしの新作を加えた。軽快な絵も見ているだけで楽しい。(やなせたかし著、大久保満男監修/かまくら春秋社・1260円)
治療を受けたくなる?
ズキズキして痛む虫歯ほどいやなものはない。治療がいやだから後回しにして、さらに悪化してしまう。昨今では歯科医の技術も進歩し、治療も昔のような痛さはなくなったが、それでもできるなら治療はしたくないものだ。
本書は歯にまつわる詩を書いた、なんとも珍しい詩画集だ。作者はあの有名な漫画家、やなせたかしさん。「アンパンマン」の生みの親。
さすが子供を魅了するヒット作を連発した漫画家だけあって、歯を見る視点もユニークでおもしろい。目からうろこの言葉がさりげなくちりばめられる。
〈歯をみれば そのひとのことは おおよそわかる〉(「歯という字」)
〈宇宙全体からみれば 人間もしょせん細菌 コンクリートの 超高層ビル群は 歯石みたいなものか〉(「さよならプラーク」)
〈歯を外す時には大変 削ったり トンカチで叩(たた)いたり 彫刻家みたいな 感じになる 歯科医というのは 一種の 芸術家だなあ〉(「歯科芸術論」)
こんな詩を読むと歯医者を恐れることはない。進んで治療を受けたくなってしまう。
評・渋沢和彦(文化部)