珈琲ブレイク (7)

弟子:お正月も、口腔ケアの仕事に行っていました。

師匠:それは大変だね。

弟子:嬉しいお年玉頂きましたよ。

   胃ろうの患者さんなんですがね、お酒を飲みたいと言いまして。
   施設の方の許可を頂き、ちょっと舐めてもらいました。
   すると、顔をしかめて・・・ ジェスチャーでもう結構って・・・
   どうも、以前飲んでいたように美味しく感じられなかったようです。

   じゃー、他に欲しいものはないかと尋ねると、
   文字盤で「こ・ひ」と答えたんです。
   むせないようにとろみをつけたコーヒーを用意しました。

   これは美味しいと感じたらしく、機嫌良く、50ccほど飲みました。

   もっともっと言われても、摂食嚥下機能に障害がありますから、
   にこにこしながら、こちらは
   ひと匙、ひと匙、バイタルサインを見ながら必死です。

文字盤
   喋ることができないので、文字盤で会話しています。
   その文字盤の下に、顔の表情を書いた絵があります。
   気持ちを5つのランクに分けて、描いています。

   そこで、コーヒーの味はどのくらい美味しいかと尋ねると
   3レベル、つまり普通。
   4とか 5じゃないの?

   「お愛想でも、せめて4って言ってよ」という私の訴えに、首を振りました。
   じゃー、4にするには何を持ってくればいいかな?と聞くと
   「お・ん・な」と指さしました。

   一緒にいた施設の女性と私は、顔を見合わせて「私ら女と違うん??」
   「ち・が・う」

   「ここの施設の誰がいいの?」

   「お・ら・ん」 「か・み・の・な・が・い・わ・か・い・お・ん・な」

   「悪―ございました、学生さんが実習に来てくれるまで待って下さいね」

師匠:面白いねー

弟子:爆笑でしたよ。
   喋れない・食べられない・おむつをしたおっちゃんが
   こんな憎まれ口をきくって、いいなーと嬉しくなりました。
   これが、お年玉です。

師匠:この関係は、単に患者さんと歯科衛生士の関係を超えているんじゃないかなー

弟子:そういう意味なら、<直接経験>と言ってもいいのかなー

師匠:いい仕事をしたね。評価されないだろうが・・・・

弟子:そりゃ―そうです。
   おっちゃっも、私も、ここでは不良グループです。<笑>

師匠:臨床というのは、そういうとこが起こる場なんですよ。
   まさに現場です。
   マニュアルに従っていればいいと評価されるのだったら、
   不良は可能性を秘めた存在だろうね。

弟子:<直接経験>というのは、自由な仕事をしたとき、
   それを反省的に言い表してみると少しわかるかもしれませんね。

師匠:そういう仕事を、創造的自由というんだよ。
   愛ですよ。
   愛は、自分の自我<マニュアル>からの仕事ではないという意味で、
   神の働きと古代人は言ったんだね。

弟子:ナイチンゲールが、看護も愛の仕事であると言ったのは、そういう意味でしょうね。

師匠:病院の待合室での光景、そこに赤ちゃんがいると、自然に人が集まって来て
   声をかけることと同じですよ。

弟子:その子が泣けば、あやしだろうし、何かを落とせば拾って声をかける・・・
   お母さんだったら、おむつを変えたり、おっぱい飲ませたり、だっこしたり・・・

師匠:少し<直接経験>がわかって来たのではないですか?

弟子:さー? でも子育てを思い出すと、何となくわかる気もします。
   当たり前のことをしているだけですが。

 

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