弟子:お正月も、口腔ケアの仕事に行っていました。
師匠:それは大変だね。
弟子:嬉しいお年玉頂きましたよ。
胃ろうの患者さんなんですがね、お酒を飲みたいと言いまして。
施設の方の許可を頂き、ちょっと舐めてもらいました。
すると、顔をしかめて・・・ ジェスチャーでもう結構って・・・
どうも、以前飲んでいたように美味しく感じられなかったようです。
じゃー、他に欲しいものはないかと尋ねると、
文字盤で「こ・ひ」と答えたんです。
むせないようにとろみをつけたコーヒーを用意しました。
これは美味しいと感じたらしく、機嫌良く、50ccほど飲みました。
もっともっと言われても、摂食嚥下機能に障害がありますから、
にこにこしながら、こちらは
ひと匙、ひと匙、バイタルサインを見ながら必死です。
喋ることができないので、文字盤で会話しています。
その文字盤の下に、顔の表情を書いた絵があります。
気持ちを5つのランクに分けて、描いています。
そこで、コーヒーの味はどのくらい美味しいかと尋ねると
3レベル、つまり普通。
4とか 5じゃないの?
「お愛想でも、せめて4って言ってよ」という私の訴えに、首を振りました。
じゃー、4にするには何を持ってくればいいかな?と聞くと
「お・ん・な」と指さしました。
一緒にいた施設の女性と私は、顔を見合わせて「私ら女と違うん??」
「ち・が・う」
「ここの施設の誰がいいの?」
「お・ら・ん」 「か・み・の・な・が・い・わ・か・い・お・ん・な」
「悪―ございました、学生さんが実習に来てくれるまで待って下さいね」
師匠:面白いねー
弟子:爆笑でしたよ。
喋れない・食べられない・おむつをしたおっちゃんが
こんな憎まれ口をきくって、いいなーと嬉しくなりました。
これが、お年玉です。
師匠:この関係は、単に患者さんと歯科衛生士の関係を超えているんじゃないかなー
弟子:そういう意味なら、<直接経験>と言ってもいいのかなー
師匠:いい仕事をしたね。評価されないだろうが・・・・
弟子:そりゃ―そうです。
おっちゃっも、私も、ここでは不良グループです。<笑>
師匠:臨床というのは、そういうとこが起こる場なんですよ。
まさに現場です。
マニュアルに従っていればいいと評価されるのだったら、
不良は可能性を秘めた存在だろうね。
弟子:<直接経験>というのは、自由な仕事をしたとき、
それを反省的に言い表してみると少しわかるかもしれませんね。
師匠:そういう仕事を、創造的自由というんだよ。
愛ですよ。
愛は、自分の自我<マニュアル>からの仕事ではないという意味で、
神の働きと古代人は言ったんだね。
弟子:ナイチンゲールが、看護も愛の仕事であると言ったのは、そういう意味でしょうね。
師匠:病院の待合室での光景、そこに赤ちゃんがいると、自然に人が集まって来て
声をかけることと同じですよ。
弟子:その子が泣けば、あやしだろうし、何かを落とせば拾って声をかける・・・
お母さんだったら、おむつを変えたり、おっぱい飲ませたり、だっこしたり・・・
師匠:少し<直接経験>がわかって来たのではないですか?
弟子:さー? でも子育てを思い出すと、何となくわかる気もします。
当たり前のことをしているだけですが。