前回紹介した詩には、その前があります。
改めて紹介します。
『まなざしかいご』(中央法規)より
「母に会うときは」 藤川幸之助
朝に母に会うときは
「おはようございます」と言う。
昼に会うときは
「こんにちは」と言い
夜には
「こんばんは」と頭を下げ
寝るときには
「お休みなさい」を忘れない。
正月には
「あけましておめでとうございます」
と正座して母に向かい合い。
認知症の母は食事はしないけれど
母の箸を用意し
縁起の良さそうな袋に入れて
母の前に置く。
母の雑煮。
母にお屠蘇。
言葉がないから
母に心がないわけではない。
何も分からないから
何もしないで良いとは思わない。
何を言っても理解できないから
何を言っても許されるというものでもない。
母の存在が私の良心を見つめている。
母が叱りつけるような厳しい目で
私を見つめるときがある。
母という海に自分自身の姿を
しっかりと映しながら
私は自らを確かめる。
母はベッドに横たわり
私を育て続ける。