ある疫学調査によれば、全体の55%の人が「歯科治療が嫌い」と答えており、この数字に国際間の差はほとんどないという。そんな「歯科嫌い」の中でも、5%ほどの人は病的に歯科治療に恐怖感を持っており、「歯科恐怖症」という疾患名まで与えられている。
診察室に入っただけで、あるいは歯科特有の「キーン」という音を聞いただけで、手足が震える、大汗をかく、口を開けられなくなる、嘔吐(おうと)反射が強くなる――などの症状を示す人がいる。中には実際に吐いたり、ひどい場合は意識を失うこともある。
一方で、近年、口腔環境の悪化と内臓疾患の関係が明らかになるなど、歯科治療が怖いからと言って、放置することが許されない情勢となっていることも事実。何とか恐怖を軽減しながら治療しようという試みが、歯科領域で検討されている。
東京歯科大学水道橋病院には「リラックス歯科治療外来」という専門外来が設置されている。責任者の福田謙一准教授(麻酔科)に話を聞いた。
「昔 から知的障害者を対象とした全身麻酔による歯科治療があり、これを歯科恐怖症の人に対応する形で研究が進んでいきました。重度の恐怖症の人には全身麻酔を 行うこともありますが、この外来の基本コンセプトは、歯科に慣れてもらうこと。最終的には自宅近くの歯科医院に通えるようにトレーニングしていくところと 考えてほしい」
歯科に対する恐怖の内容は個人差が大きく、医療側の対応もさまざまだが、最も代表的なのが「鎮静法」とよばれるアプロー チ。これは痛みに対する恐怖が強いときに行われるもので、静脈麻酔薬で眠らせてから治療を行い、終わると拮抗薬で麻酔を覚ますというもの。最近は内視鏡検 査などでも使う安全性の高い麻酔薬だが、治療する側には苦労もあるという。
「本来の歯科治療の際は、患者は無意識のうちに舌をよけるなど『治療への協力』がある。ところが麻酔で眠っているとそれがない。噛んでほしいときにも噛んでもらえないし(笑)」(福田准教授)
開業医から「親知らずの抜歯」で紹介されてくる患者も多い。痛みに対する極度の緊張状態に陥っているので、万全の態勢で臨むことになる。
「最初の麻酔の注射を怖がる人には、その前に表面麻酔の貼付剤を使うこともある。でも、ゆっくり注射をしていけば、普通の麻酔で十分効果がある。忙しい開業医は、その時間が取れないだけのこと」(同)
福田准教授によれば、昭和30年代から40年代生まれの人に歯科恐怖症は多いという。
「ちょうど歯科医が足りない時代に幼少期を過ごしているので、丁寧な治療を受けられなかった世代。そんな経験が『歯医者は怖いところ』というイメージになっている。逆に今の若い人は怖がらないですよ」
ちなみにリラックス歯科治療外来は一部を除いて自由診療。治療内容や麻酔をかけている時間にもよるが、静脈内麻酔法は3万~5万円、全身麻酔は10万円前後が医療費の目安だ。
福田准教授によれば、同じ“痛み”に対しても、欧米人は騒ぐ人が多いのに対して、日本人は何とか耐えようとする傾向が強いという。「我慢は美徳」と考える国民性がそうさせるのかもしれないが、それで治療を遠ざけてしまったのでは意味がない。
※週刊朝日 2014年3月28日号より
<昭和30年代から40年生まれの人に歯科恐怖症は多い>というのは、
昭和33年生まれで、乳歯から虫歯で辛い思いをしてきた私には大変へん良くわかります。
麻酔もあまりしてくれなかったし、注射の針も太かった。
子どもの私にとって歯科治療は拷問のようなものだったと記憶しています。
やさしい歯科衛生士も、香川県にはいなかった。
香川県歯科衛生士学院(現・香川県歯科医療専門学校)が開校したのが
1968年(昭和43年)ですから。
虫歯のチェックでエアーをかけるとか、
インレーセットのさい窩洞にセメントを入れるとか、自分自身が痛い目に遭ったので、私がそれをするときは
細心の注意を払って患者さんに向かいます。
一度も虫歯になったことがない人は素晴らしいことですが
患者さんにとっては必ずしもありがたい歯科衛生士ではないかもしれませんね。