続主体的口腔機能向上サービス(在宅版一例)

Tさんの聞きとり口腔機能向上プログラム つづきです。Tさん
総合テレビで2013年8月12日放送された
「NHKスペシャル▽知られざる脱出劇~北朝鮮・引き揚げの真実~」
Tさんの過酷な引き上げの話そのものでした。

終戦時、北朝鮮にいた日本人民間人は約30万人。
なかなか日本への引き揚げが許されず、
飢えと寒さの中で3万数千人が亡くなったそうです。
生き残った人の多くは、ソ連軍の監視をかいくぐり、
大きな犠牲を出しながら 「自力」で38度線を越え、
北朝鮮から脱出しました。

Tさんは、ソ連軍に捕まることはなかったけれど
38度線で北朝鮮の人に見つかり、
「お前たち日本人は、北朝鮮人をいじめたのだから、
ここで農作業をしないと通さない」

言われたそうです。

その時、一人のヤンバーに救われたと話してくれました。
そのヤンバーは、Tさんたちを捕まえた北朝鮮人たちに
「この人たちは、私たちと同じ人間じゃないか。
同じ人間として国境線を越えようとしているんじゃないか、

逃がしてやれ。」といったそうです。

ヤンバーとは、髭の長い老人だと説明してくれました。
北朝鮮では年寄りを尊敬し、言うことを聞くという儒教の文化が
しっかり根付いていたそうです。

そのヤンバーの言葉に救われ、38度線を超えると、
今度はアメリカ軍がジープで、ソウルまで運んでくれたのだそうです。

釜山から船でから博多にわたり、そこで新札の2千円をわたされた。
汽車で岡山へ来る途中、広島を見て驚いたと言いますが、
広島のことは詳しく語ってくれません。

日本に引き揚げて、大変苦労をしますが、
いい先生との出会いを通して、
Tさんは高校の教師となっていくのですが・・・

このような話は、息子さんたちには語ったことがなかったようです。
息子さんは「そんな昔のことばっかり思い出しているンか?」
この感想の言葉には、多くの思いが込められていると思います。

Tさんの話が結婚にたどり着いたころ私が、
「波乱万丈でしたが、いい人生だったですね。」というと、
しばらくしてTさんは、
「そうですな。」とうなずき
一筋の涙を流されました。

Tさんは、その1か月後に再度脳梗塞で、入院し今もほとんど発語はありません。

現在は奥さんが頑張って在宅介護をしています。
私は、週2回訪問して口腔ケアを続けています。
長い間口腔ケアしてきましたから、
会話が出来なくともTさんと私の息はぴったり。
目を閉じていても、歯ブラシが近づくと口を開けてくれるから不思議です。

多くのことを教えられましたが、一番心に残っているのはヤンバーのことです。

人間はどこまでも非人間的になることもあるが、
あの憎しみ渦巻く戦争の中で、
敵に『同じ人間として』という言葉を語る存在でもある。

その体験を、Tさんから直接聴けたことは貴重な体験でした。

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