§第三十一段
南北に長い日本は、東洋の花づなと呼ばれるほど四季折々の花に富み、一年中私たちを楽しませてくる。
美しい花は、心を揺さぶる不思議な存在である。1本の薔薇でも、想いを寄せる人からいただくと天にも上る気分になる。
花は、なぜそれほどまでに美しい姿になる必要があったのか。その美しさを誰に顕示したいのだろう。人が存在せぬはるか昔から、まだ現れ出でぬ者のために咲いていたのだろうか。
さて、私たちの仕事空間、診察室にも必ず花がある。古典的な生け花、モダンなアレンジフラワー、花でなくともグリーンの鉢。最近ブームのハーブを見ればホッとした面持ちになる。今回は、ひと味違った生け花の楽しみ方を提案しよう。
まずは花の種類。実は誰もがよく知りつつも、ほとんど飾っては楽しまない可憐な草花が身近にあるのだ。一般に〈雑草〉と言われる草花である。
しかし、雑草といっても立派な名前がある。スズメノカタビラ、オオイヌノフグリ、エノコログサ…。田舎の畦道ではなくとも、アルファルトの割れ目から伸びてくる生命力あふれる草花である。私は、好んでそれを飾る。お金もかからない。
次に飾り方だが、ただ小さな花瓶にさすのでは芸がない。試験管や和紙を巻 いたセメントの空き瓶、景品のワイングラス、デミタスカップ、楊枝立てなどに入れコースターの上に飾ると、これがまたおしゃれに変身する。また、小さな容 器に毛糸などを巻き付け、模型を作るときに余る石膏を流せば、モダンアートのような花瓶ができあがる。患者さんに欲しいと言われれば差し上げている。
そして、飾るコツは、アレンジして根元を輪ゴムでまとめることと、飾る空間を整理することだ。それから、野の花なので、アブラムシなどが付いていることがあるのでご注意。
草花のなくなった季節には、松ぼっくりや色づいた落ち葉を飾ったり、サルトリバラのつるで小さなリースを作る。
地味な品の良さがいいのか、ただ珍しいからなのか、ありきたりの野草が豪華な蘭よりも患者さんの目を引くから不思議である。
野生の花に興味を持ってから、何気なく通勤する雑踏の片隅に目がいくようになった。たくましい生命力に励まされ、そして安らぎ、移りゆく季節を感じる。