弟子:相変わらず訪問に行っています。
また、新しい患者さんができ、頑張っています。
師匠:どんな患者さんなのかな?
弟子:訪問口腔ケア患者Mさんです。
順調に口腔ケアと言うか、訪問口腔ケアにおける信頼関係は深まっております。
足浴したり、爪を切ったり・・・
師匠:君は何でもするんだね。
弟子:身体全体が口だと思っていますから。
師匠:君らしいね。
弟子:いろいろしゃべってくれるようになって、私も楽しいんです。
なんか、詩を書いたり、編み物が好きだったHさんに似てて・・・
師匠:Mさんも詩なんか書くの?
弟子:そうじゃなくって、雰囲気が似ている。
喋り方や、乙女チックなところ。
師匠:いつもはどうしてるの、そのMさん。
弟子:施設内のレクレーションにも参加したくないそうで、一日ベッドにいます。
本人言うには、食事も一人だそうです。
師匠:<孤絶>だね。僕の言う<孤絶>状態だ。
弟子:そうですね。以前おっしゃっていた、<孤絶>ですね。
師匠:人間生まれるのも、死ぬのも独りだから孤独だ。
孤独は悪いことではない。孤独は大切にされなければならない。
しかし、この<孤独>は<孤絶>とは違う。
周りと隔離状態になったのが<孤絶>だね。
弟子:<孤絶>、怖いですね。
師匠:とても恐ろしいことだと思うね。
<孤絶>状態のMさんにとって 君が行くことは、
心に、風が通ったんじゃないかねー。
弟子:手探りで関わっていることが、そうなってるといいですが・・・
師匠:そのコミュニケーションは、針の穴に風を通すようなことだね。
弟子:そうですね。
針の穴がどこにあるか探す・・・
ケアって、そう言うことかもしれませんね。
一人一人、その穴がどこにあるか、一緒に探すのかも・・・?
師匠:きっとそうだよ。
弟子:結構、面白いですよ。
Mさんの心に風が吹いた時は
こちらも、詰まった針の穴に風吹くので、爽やかになりますものね。
<これが本当の神風!?>…ここは語らず。
弟子:実は、Mさんとこんな会話をしました。
「Mさん、もう春やね。窓の外見てみない?」
「結構よ」
「どうして、気持ちいいよ。そろそろ桜の季節だし。見ようよ。」
「目が悪くなったから、見えないのよ。」
「そうなの・・・・眼鏡は?」
「どこかにいってしまったわ」
師匠:それは、単に視力の問題じゃないかもしれないよ。
弟子:あ、あぁー そんなこと、全く考えもしませんでした。
次は、そこも踏まえて、会ってくることにします。
<孤絶>を解放せねば、Mさんにとっての、世界も隣人もなくなってしまう。
それはMさん自身が存在を失ってしまうことにほかならない。
そうなると、「口腔ケアも、お風呂も結構」という気持ちも理解できる。
外を見ることもお断り・・・?