訪問口腔ケア・コミュニケーションのヒント(1)(2)の
患者さんは女性でMさんです。
Tさんは、特別養護老人ホームの二人部屋で1日を過ごしています。
枕元には、この施設のイベントで送られた表彰状が飾ってあります。
日付がH21年ですから、このベットでの生活は5年以上になるのでしょう。
なかなか歯磨きをして下さらないので、施設の方が困っていました。
施設の方から話を聞くと、お風呂にもはいなないのだそうです。
「入ると死ぬと思っているんですよ。」私たちにとっての至福のお風呂!
これがいやなら歯磨きなんてしてくれるはずはないですね。
とにかく、私の話し相手になってもらうことから始めたいと思いました。
あせらないことが大事!
出身は静岡県。
戦争の時、お父さんが四国の方が安全だと考え、一家で徳島に越してきたそうです。
その後、国家公務員になったMさん仕事の関係で、高松で生活することになったそうです。
Mさんの言葉づかいは、大変上品で、きっとお嬢様育ちだったのだろうと思います。
私もこの時はいつもの叔母さん口調ではなく、上品な会話を心掛けます。
というか、丁寧にお話しする場合、
自然と、言葉づかい・会話のスピード・声の大きさ・声のトーンは、
相手の方に近くなりますね。
私「Mさん、何か趣味とかございます?」
M「趣味と言っても、こんな生活ですからんー」
私「じゃ、若いころの楽しみとか、いかがでした」
M「そうね、ピアノをしましたのよ。」
私「おうちにピアノがあったのですか。Mさんはお嬢様でしたのね。」
M「そんな、お嬢様ではないけれど、ピアノはかなりのところまでしました。」
私「ソナタ・ソナチネまでされたの」
M「まぁ、でも曲の方が楽しいんで、そちらを」
私「私は、ブルグミュラー 25とエリーゼのためにで終わっちゃいました。
M「でも、嫉妬されましてね、やめました。」
私「誰に?」
M「姉にねー」
私「お姉ー様に」・・・・・
こんな具合で、会話が続き
その他の趣味が、語学。英語かと思いきや、フランス語とドイツ語。
新聞の切り抜きをみると、教育問題であったり、福祉問題
独身で定年まで公務員を勤め上げられた方が、このベッドで何年も過ごされているのです。
きついですよね。
私「Mさん、蒸しタオルで顔を拭きますよ。」
電子レンジで温めたタオルで顔を拭こうとすると、「やめてよー」
私「どうして、気持ちいいよ」
M「いいのよ、鼻が赤くなるから」
私「じゃー試しにちょっとだけ。」
M「もう、結構ですよ!そんな・・痛いじゃない」
私「ごめん、もっとそーっとするから、そうい言わずに・・・」
確かに、色白のMさんの鼻は赤くなった。
まずいと思ったのですが、すぐ、元の白い肌にもどりました。
タオルが汚れた分、Mさんの顔は垢ぬけました。
私「気持ち良かった?」
M「悪くはないけど・・・」Mさん流の返しです。<悪い気はしていない>
私「また来週来るね。歯磨きと、顔を拭きに。いいかしら」
M「好きになされば」
これも、Mさん流の「ありがとう」だと受け取りました。