§第十一段
先日、岡山で日本摂食嚥下リハビリテーション学会が開催された。興味ある分野なので参加してみると、医師、歯科医師、看護士、歯科衛生士、言語聴覚士、 作業療法士、栄養士など、いろいろな職種が参加していた。
その学会2日目の夜のこと。
夕食を終え、ホテルへ戻る途中で偶然に面識のある歯科医師とお会い し、酒を片手に話し込むことになった。”大先生”なので最初は緊張していたものの、アルコールが入るとお互いリラックスモードとなり、すっかり意気投合し た。気になる症例の話、歯科医師会や歯科衛生士会のあり方について、ついには21世紀の日本の将来展望まで議論し、「やはり歯科医師も歯科衛生士も人間性 が大事。哲学だよね」という結論に達した。
ここまでならば”21世紀の歯科医療を考える夜の会”は、楽しく、有意義にお開きとなっただろうが、そうはいか なかった。大先生は最後に「君もそんなに熱心に勉強するのなら、歯科衛生士なんてやめて歯科医師になれば?」と発言したのである。その一言で私のほろ酔い 気分は一瞬にして消え去った。歯科衛生士のことを認めていれば、このような言葉は決して出てこない。この大先生も私の言葉をまともに受け止めてはいないの だ。そう思うと無性に腹が立った。そして、歯科医師にすら認められない歯科衛生士という職業は、他職種にはどのように映っているのかを考え、淋しくなっ た。
多くの専門職種が集まった今回の学会では、館村卓先生の「嚥下リハビリテーションのためには、父権主義を廃したチームアプローチが必要である」という言 葉をはじめとして、誰もがチーム医療は必要不可欠と感じていることが伝わってきた。また、質疑応答で「嚥下リハビリテーションにおいて歯科衛生士の存在は 不可欠なのに、コンタクト方法がわからない」という医師からの率直な意見も聞かされ、職種のあり方を考えさせられた。
さて、医師は看護士に対して「君も医者になれば?」などとは決して言わない。それは、その専門性を認めているからだ。歯科衛生士も歯科医師や他職種に専門性を認められるには、口腔ケア分野においても更なる努力が必要だと感じる。
私は歯科医師になる能力は持ち合わせていないが、例えその能力があったとしても、歯科衛生士であり続けたいと思う。