§第十段
ある日、診療所にセールスウーマンのおはちゃんがやって来た。売りに来たのは下着。ブラジャー、ガードル、ボディースーツ・・・。体をきちんと測って各 人にピッタリのものを選び、付け方まで指導してくれた。
その下着を付けた途端、40年間でくたびれた私の体型は、一瞬にして5~10歳も若返ったではない か!
スタッフ全員「欲しい~!」と意気込んだが、セット価格は30万円。値段を聞いた途端、全員が急に無口になり「重力に身を任せて生きていこう」と決 心したようであった。が、セールスのおはちゃんは「私もこれを付ける前はウエストの位置もわからないような体型だったけれど、今は56歳とは思えぬメリハ リボディーでしょう?
それに、下着の善し悪しは姿勢や肩こり、腰痛にも関係しているから、健康を左右するのよ」と、フェロモンを振りまきながら私たちの 心をさらにくすぐった。「私の人生が冴えないのは、スーパーの安物下着のせいだ」。そんな思いが湧きあがり、確信に変わりつつあるとき、ついに一番若くて スタイルのいい受付嬢がおはちゃんと契約した。
結末はともかく『一番長い時間身につける下着は、本来一番気を遣うべき』というおばちゃんの理論は説得力があった。これには同感するが、私は下着以上に 健康を左右するのは靴だと考える。歯科衛生士にとってはナースシューズ。
私もかつては2千円程度のごく普通のものを履いていたが、ドイツ製のナースシュー ズに出会ってからは認識が変わった。足の裏全体のフィット感、歩行時のリズミカルさはもちろん、夕方の疲れが違う。歯科衛生士ならば、0.1mmの咬合の ズレが肩こりや頭痛の原因となるのはご存知のことと思う。同じ症状が、足元の環境如何によっては現れるのである。
学校検診で子どもたちを裸足にさせ、口と一緒に足をチェックする歯科医がいる。今の子どもたちは足をあまり使わないので、口と同様足も弱っており、合わない靴を毎日履くと、足が変形したり全身にも弊害が起こる。当然、咬合にも関係してくるというのだ。
ナースシューズは高いといっても1~1.5万円程度。国産なら1万円以内で随分良いものが手に入る。お出かけ用のおしゃれ靴なら1万円は普通の値段。毎日履くシューズにも気を遣いたいものだ。